SAXS散乱パターン-構造図鑑
GALLERY
この図鑑は、小角X線散乱(SAXS)に初めて触れる方や、データ解釈の初歩を学びたい方向けの入門ガイドです。SAXSで頻繁に観測される代表的な散乱パターンをシミュレーションにより再現しており、各パターンの特徴的な「指紋」を視察することで、簡単な数式(電卓レベルの計算)だけでもおおよその構造情報を導き出すことができます。
さらに詳細な情報を引き出すためのヒントも掲載しています。はじめてSAXSの利用を検討されている方の参考になれば幸いです。
※実際のデータ解析においては、溶媒などのバックグラウンド散乱を適切に差し引いた後に、これらのパターンとの照合を行ってください。
No. 01球状粒子
No. 02球状粒子の凝集体
No. 03高濃度球状粒子
No. 04コア・シェル型球状粒子
No. 05棒状・円盤状粒子
No. 06棒状粒子のラメラ構造
No. 07ガウス鎖
(ランダムコイル型高分子等)
No. 08ランダム
ネットワーク
双連続構造
(無秩序相)
双連続構造
(秩序相)
No. 01 【基本形】希薄な球形粒子(Dilute Spheres)

球状粒子の希薄分散体の散乱パターンは、すべての解析の出発点です。「サイズが揃った、互いに干渉しない粒子」がどのようなプロファイルを描くかを理解するための定規です。
1. 現場で見るべき「指紋」
- 低角(左端):強度が一定になる「平坦な肩(プラトー)」があります。
- 中間〜高角:規則的な「谷(ディップ)」と「山」が続きます。
2. 得られる主な情報
- ギニエプロット(Guinier Plot)によるサイズ評価:グラフの右図のように、横軸 q2、縦軸 ln I(q) でプロットした際の初動の傾き a から、粒子の広がり(慣性半径 Rg)が求まります。
Rg = √(−3×a)
※この直線領域が広いほど、形状が球に近いことを示唆します。
- 谷(ディップ)の位置からの逆算:最初の谷の位置 qmin1 から、物理的半径 R を算出できます。
R ≈ 4.49 / qmin1
従って、おおよその粒径は、ギニエプロットとディップ位置の双方を利用してクロスチェックできます。 - 高角領域の減衰(Porodの法則):グラフの高角側(右側)の減衰勾配に注目します。滑らかな界面を持つ球形粒子の場合、強度は q−4 に比例して減衰します。これは粒子の「表面の滑らかさ」を反映しており、界面が粗い場合にはこの勾配から逸脱します。
3. 粒子のサイズ分布(多分散性)がプロファイルに与える影響

このグラフは、粒子の半径のバラつき(多分散度:σ)が異なる3つのケースを示しています。
- 青色実線(0% / Monodisperse):すべての粒子が同一サイズである「単分散」の理想的な状態です。谷(ディップ)が非常に深く鋭く、プロファイルの特徴が最も鮮明に現れます。
- 緑色破線(5%):わずかにサイズ分布を持つ状態です。理想的な形状を維持しつつも、鋭かった谷が浅くなり、プロファイルの特徴が緩和され始めます。
- 赤色点線(15%):サイズ分布が広い状態です。深い谷は完全に消失し、なだらかな減衰曲線へと変化します。
得られる主な情報
- 「谷の深さ」は「均一性」の指標:実測データに鋭い谷が観測される場合、ナノ粒子のサイズが極めて精密かつ均一に制御されている証拠です。
- 減衰曲線の解釈:谷が消失しなだらかな曲線(赤色点線)となる場合、それは粒子が存在しないのではなく、「広いサイズ分布を持つ粒子群」が存在することを示唆する重要な情報です。
- 分布の概略評価:「谷がいくつ見えるか」「谷がどの程度深いか」をこのグラフと照合するだけで、詳細なフィッティングを行わずとも、現場でサイズ分布の概略を推定することが可能です。
実際の測定データの解析:BL08W SAXSを利用した金ナノ粒子の測定例
露光時間: 60秒
X線エネルギー: 8.0 keV
1. 粒子サイズはおおむね直径20 nm程度
グラフでは、散乱強度が q ≈ 0.5 nm−1 付近で最初の谷を示しています。球状粒子のSAXSでは、最初の形状因子の極小がだいたい qR ≈ 4.49 に現れるため、R ≈ 4.49 / 0.5 ≈ 9 nm、つまり直径は約18 nm程度と見積もれます。これは「平均粒径 約20 nm」とよく一致します。
2. 粒子はおおむね球状に近い
q ≈ 0.5 nm−1 付近の谷、その後の弱い山・肩のような振動は、球状ナノ粒子の形状因子に典型的な特徴です。完全な棒状・板状・不定形凝集体だけなら、このような球状粒子らしい振動は出にくくなります。
3. サイズ分布はあるが、極端に広くはなさそう
振動が見える一方で、山や谷はかなり丸く、強く鋭いピークではありません。これは、粒径が完全に均一ではなく、ある程度のサイズ分布を持つことを示唆します。平均粒径20 nm前後の金ナノ粒子分散液として自然な見え方です。
4. 規則的な配列や強い凝集は目立たない
q全域に鋭いピークが見えないため、粒子同士が結晶的・周期的に並んだ構造は強くは示されていません。低q側で強度は高いですが、掲載図だけを見る限り、強い凝集体や長距離秩序を示す明瞭な構造ピークは確認しにくいです。
- ・平均粒径(直径 D): 17.13 nm
- ・半径の多分散度(σ/R): 8.5%
- ・バックグラウンド強度 (BG): 0.40
※多分散球形モデル(Schulz-Zimm分布)を用いて、最小二乗法により実験データを解析した結果です。
(Google Geminiによりフィッティングプログラムを作成・実行)
※実際の金の核自体は17nm程度であり、表面の層を含めた全体像として20nm(あるいは名目上の20nm級/DLSでの測定値)として販売されているものである可能性が極めて高いと考えられます。
1. 粒子の表面状態(ポロド則)
q ≈ 0.8–1.2 nm−1 付近の減衰曲線が q−4 に従っていることから、粒子と溶媒の界面が非常にシャープで、表面が滑らかであることがわかります。表面に粗さがあったり境界がボケている場合は、この傾きが緩やかになります。
2. 内部構造の均一性
単一の均一球状モデルで非常によく説明できるため、粒子内部まで密度が一定な均質構造であると考えられます。中空やコア・シェル構造の場合、散乱プロファイルはより複雑なパターンを示します。
3. 低角側のわずかな「せり上がり」の正体
q ≈ 0.1 nm−1 付近でのわずかな強度上昇は、数個の粒子がくっついた微細な凝集(ダイマー等)の混入、あるいは粒子径よりも十分に大きな構造体(液体中の気泡やゴミ等)や容器由来のバックグラウンドの影響を示唆しています。
No. 02 球状粒子の凝集(Aggregated Spheres)

粒子が単独で存在せず、相互に付着して「凝集体」を形成している状態です。
1. No. 01 との共通点
- 高角側の挙動:グラフの右側(Primary Particle領域)を見てください。凝集していても「元の粒子の形」が保たれていれば、No. 01 と同じ位置に谷や山が現れます。ここから一次粒子のサイズを確認できます。
特徴的な相違点
- 低角側の跳ね上がり:No. 01 では平坦だった低角部が、凝集系では急激な右肩上がりのスロープに変わります。
- フラクタル勾配:プラトー(No. 01)と一次粒子の肩(No. 01)を繋ぐ領域の傾きに注目します。この傾き(勾配 −D)が、凝集体内部の充填密度(疎密の状態)を表します。
No. 03 高濃度の球状粒子(Concentrated Systems)

粒子が密集し、互いの排斥体積によって配置が制限された状態です。
1. No. 01 との共通点
- 高角側の収束:グラフの q > 0.2 付近を見てください。高濃度でも粒子自体の形は変わらないため、No. 01 の形状因子 P(q) と完全に一致します。
特徴的な相違点
- 相互作用ピーク(Interaction Peak):No. 01 では単なる「肩」だった領域に、特徴的なピークが現れます。このピーク位置 qpeak を使うことで、粒子同士の平均的な距離を算出できます。
d(粒子間距離)≈ 2π / qpeak - 低角側の強度抑制:粒子間の干渉(反発的相関)により、左端の強度が No. 01(希薄系)よりも低くなります。
NanoTerasu 活用アドバイス
NanoTerasuなら、これらのパターン判別に必要なデータがわずか数秒で得られます。まずは測定し、No. 01 の定規を当ててみる。左端が跳ね上がっていれば No. 02(凝集)、山が見えれば No. 03(高濃度)と即座に診断できます。
No. 04 コア・シェル型の粒子2重球状構造(Core-Shell Spheres)

「粒子にポリマーをコーティングした」「カプセル状の構造を作った」といった、内部と外部で密度が異なる二重構造のパターンです。
1. No. 01 との共通点
- 低角側のプラトー:グラフの左端(Guinier領域)を見てください。No. 01 と同様に平坦な肩があります。これは「コア+シェルの合計サイズ」としての慣性半径 Rg を反映しています。
- 高角側のポロド勾配:一番右側の減衰は、やはり No. 01 と同じ勾配 −4 に収束します。これは、最終的に見えているのが「一番外側の滑らかな界面」だからです。
特徴的な相違点(ここが「指紋」!)
- 複雑で深い振動構造:グラフの中央から右にかけての振動に注目してください。単なる球体(No. 01, 青点線)に比べ、コア・シェル粒子(赤実線)は振動の谷(ディップ)が非常に深く、かつ複雑な周期を持っています。これは、コアからの散乱波とシェルからの散乱波が互いに干渉し合っているためです。
3. 得られる主な情報
- 「均質な球」とのズレをチェック:同じ外径の均質な球(青点線)に比べて、谷の位置がズレていたり、特定の山が強調されていたりすれば、それは内部に別の密度を持った「コア」が存在する決定的な証拠です。
- コントラストの反転:もしシェルの密度が溶媒やコアと大きく異なる場合、この振動の振幅はさらに激しくなります。この「波打ち方の複雑さ」が、被覆層の厚みや密度の情報を握っています。
NanoTerasu 活用アドバイス
コア・シェル構造の解析では、コアとシェルの「密度の差(コントラスト)」が重要です。NanoTerasuの高輝度ビームを用いれば、シェルが非常に薄い場合や、コアとシェルの密度差がわずかな場合でも、この「干渉による深い谷」を鮮明に捉えることができます。「本当に被覆できているか?」を電子顕微鏡で何百個も数えて確認する前に、SAXSで数秒測定し、この図鑑のNo. 01(均質球)とプロファイルを重ね合わせてみましょう。谷の位置と深さが一致しなければ、それは被覆に成功しているサインです。
No. 05 棒状・円盤状粒子(Rods & Disks)

「球の定規(青点線)」が引き伸ばされたり、押し潰されたりした状態です。形状が「球」から「棒」や「円盤」へと変化すると、散乱の「減衰の速さ」と「曲がり方」が劇的に変化します。
1. 現場で見るべき「指紋」(log-logプロット)
粒子が異方性を持つ場合の散乱プロファイルです。球形からの逸脱に伴い、散乱の減衰挙動が大きく変化します。
- 中間領域の勾配に注目します。
- 棒状(Rod, 赤線):勾配 −1 で減衰します。
- 円盤状(Disk, 緑線):勾配 −2 で減衰します。
- 勾配が −4 より緩やかであれば、粒子形状が球形ではないことを示唆します。
2. 得られる主な情報(断面・厚み解析)
形状を特定した後、専用のプロット軸に切り替えることで、複雑な解析なしに「太さ」や「厚み」を算出できます。

- A. 棒の「太さ」を測る(断面ギニエ):ln(q · I) vs q2 でプロット(右側画像・左図)。断面の慣性半径 Rgc を傾き a から算出:
Rgc = √(−2a)
※ q2=0 付近に直線領域があれば、断面の形が保たれた「棒状」であると診断できます。 - B. 板の「厚み」を測る(厚みギニエ):ln(q2 · I) vs q2 でプロット(右側画像・右図)。厚みの慣性半径 Rgt を傾き a から算出:
Rgt = √(−a)
※この直線領域の有無が、構造が「面」であることの裏付けになります。
3. 解析のヒント:次元の確認
- q−1 勾配 + 断面ギニエで直線 = きれいな棒状・線状
- q−2 勾配 + 厚みギニエで直線 = きれいな円盤状・膜状
4. 柔軟な高分子やネットワーク構造との見分け方
- 円盤(Disk)とガウス鎖(No. 07)の識別:どちらも中間領域で −2 勾配を示しますが、円盤状粒子は高角側で「厚み」に由来する急激な強度の落ち込み(形状因子の影響)を見せるのに対し、ガウス鎖は高角側でも散乱がダラダラと残ります。
- ランダムネットワーク(No. 08)との識別:棒や円盤は −1 や −2 の明確な中間勾配(次元性)を持ちますが、Debye-Bueche型のようなランダムネットワークは、プラトーから直接 −4 勾配へと滑らかに減衰し、特定の次元性を示しません。
NanoTerasu 活用アドバイス
棒状や円盤状の粒子は、溶液中で特定の向きを持たない「ランダム配向」であっても、SAXSならその幾何学的な「次元」を明確に判別できます。タイコグラフィで一つの粒子を克明に写し出す前に、まずはSAXSで「このサンプルは全体として1次元的な棒なのか、2次元的なシートなのか」という情報の裏付けを取りましょう。
No. 06 棒状粒子がつくるラメラ構造(Lamellar Structure)

洗剤などの界面活性剤、脂質膜、あるいは層状高分子で見られる「膜が積み重なった」構造です。単なる円盤(No. 05)がバラバラに存在するのではなく、規則正しくスタックしているのが特徴です。
1. 現場で見るべき「指紋」
- 周期的な鋭い山(Bragg Peaks):等間隔に並ぶ鋭いピークが現れます。これが「層が積み重なっている」決定的な証拠です。
- 全体の減衰(エンベロープ):ピークを結んだ全体の形は、勾配 −2 に沿って減衰します。これは「Disk」と同様の「2次元的な面」の性質を反映しています。
2. 得られる主な情報
周期 D と膜の厚み T という、ラメラ構造の主要なパラメーターを算出できます。(D−T=W は、膜と膜の隙間に相当)
- A. 積み重なりの周期 D を測る:最初のピーク位置を qpeak1 とすると:
D(周期・面間隔)≈ 2π / qpeak1
例:q = 0.25 nm−1 にピークがあれば、約 25 nm 間隔で膜が並んでいます。 - B. 膜の厚み T の評価:強度が一度急峻に低下し、その後に再上昇する位置(形状因子の影響)に注目します。(上記のグラフでは q = 1.57 nm−1 付近)
T(個々の膜の厚み)≈ 2π / qmin_envelope
3. 解析のヒント:棒(Rod)との決定的な違い
- Rod:勾配が緩やか(−1)で、周期的なピークは現れません。
- Lamella:勾配が急(−2)で、規則的な山が並びます。
NanoTerasu 活用アドバイス
ラメラ構造は、温度や濃度、溶媒の条件で劇的に変化します。NanoTerasuの高輝度・高速測定なら、ピークの位置(周期 D)とエンベロープの形(厚み T)の変化をリアルタイムで追跡可能です。
No. 07 ガウス鎖(Gaussian Chain / Polymer)

溶液中で不規則に揺らいでいる高分子(ランダムコイル)のパターンです。界面がはっきりした「硬い粒子」とは全く異なる指紋を示します。
1. 現場で見るべき「指紋」
- 振動が一切ない:グラフの緑色の太い実線(Gaussian Chain)を見てください。赤色の点線(Rigid Rod)に見られるような規則的な谷や山が全く現れず、全領域で滑らかな曲線を描きます。これは、密度分布が空間的に「ぼやけている」ためです。
- 中間領域の勾配 −2:これが最大の識別ポイントです。ロッドが勾配 −1(1次元的)なのに対し、ガウス鎖は勾配 −2(統計的2次元性)で減衰します。
2. 得られる主な情報
- 勾配が −2 かどうかを確認:中間領域(Intermediate領域)で強度が q−2 に比例して落ちていれば、それは「硬い棒」ではなく「柔軟な鎖」である証拠です。
- 回転半径 (Rg) の見積もり:低角側(Guinier領域)の折れ曲がり位置から、高分子鎖全体の広がりを把握できます。
3. 他の構造(ロッド・円盤・ランダムネットワーク)との見分け方
- ロッド(No. 05)との違い(次元性と柔軟性):ロッドが勾配 −1(1次元的)なのに対し、ガウス鎖は勾配 −2(統計的2次元性)で減衰します。同じ慣性半径 (Rg) であっても、この傾きで「剛直な構造」か「柔軟な構造」かを判別できます。
- 円盤(No. 05)との違い(高角側の残存強度):どちらも勾配 −2 を示しますが、円盤状の硬い粒子は高角側で「厚み」による急激な強度の落ち込み(形状因子の影響)を見せます。一方、ガウス鎖は高角側でも散乱が強く残ります。
- ランダムネットワーク(No. 08)との違い(界面の鋭さ):ガウス鎖は −2 でゆっくり減衰しますが、Debye-Bueche型は密度の境界(界面)がはっきりしているため −4 で急激に減衰します。
NanoTerasu 活用アドバイス
高分子材料の解析では、この「勾配 −2」が基本となります。もし傾きが −5/3 (≈ 1.67) を示す場合は、溶媒親和性が非常に高く、分子鎖が膨潤していることを示唆しています。
No. 08 ランダムネットワーク(Debye-Bueche型) / Random Network

特定の形状(球や棒)を持たず、密度のゆらぎが空間的にランダムに分布している系の指紋です。多孔質材料、高分子ゲル、あるいは不均一な合金構造などで頻繁に見られます。
1. 現場で見るべき「指紋」
- 特徴的な構造ピークがない:グラフの青い太い実線(Debye-Bueche)に注目してください。双連続構造(No. 09, No. 10)に見られたような「山(コブ)」は一切現れません。
- なだらかな減衰:低角側の平坦なプラトーから、高角側に向かって一貫して強度が低下します。
- 高角側のPorod勾配(−4):q が大きくなると、明確な界面の存在を示す q−4 (グレーの破線)のスロープに完全に一致します。
2. 得られる主な情報
ランダムな密度のムラが、平均的にどれくらいの大きさ(相関長 ξ)であるかを特定できます。
- Debye-Buecheプロット:横軸 q2、縦軸 1/√I(q) でプロットします。
1/√I(q) = (1/√I(0)) × (1 + ξ2q2)
直線の傾きから、相関長 ξ(不均一性の空間スケール)が求まります。
目安:グラフが折れ曲がり始める位置 qtrans から、ξ ≈ 1 / qtrans と暗算できます。
3. ガウス鎖や形状粒子(棒・円盤)との見分け方
- ガウス鎖(No. 07)との違い(界面の有無):ガウス鎖は q−2 でゆっくり減衰し「明確な界面」を持たないのに対し、Debye-Bueche型は q−4 で急激に減衰し、ランダムながらも「密度の境界(界面)」がはっきり存在することを示唆します。
- 棒状・円盤状粒子(No. 05)との違い(次元性):棒(−1)や円盤(−2)のような特定の次元性を示す中間勾配を持たず、低角のプラトーから直接 −4 勾配へと滑らかに移行します。
NanoTerasu 活用アドバイス
Debye-Bueche型の解析では、低角側のプラトーから高角側の −4 勾配までを広範囲に、かつフラットなバックグラウンドで捉えることが不可欠です。それにより、ゲルのような複雑な材料において「不均一構造の平均サイズ(ξ)」と「界面の鋭さ」を同時に、かつフィッティングなしで即座に評価可能です。放射光の強靭なフラックスと高いS/N比があれば、ノイズに埋もれがちな高角側の q−4 領域を正確に抽出できる可能性が増えます。
No. 09 双連続構造(無秩序相) / Disordered Bicontinuous
マイクロエマルションや高分子ブレンドの初期相分離で見られる構造です。二つの相が空間を埋め尽くして絡み合っていますが、長距離的な規則性(結晶のような並び)はありません。
1. 現場で見るべき「指紋」
- ブロードな山(Correlation Peak):グラフの紫色の太い実線(Disordered)に注目してください。秩序相に見られたような「鋭い複数の山」は消失し、なだらかな大きな山が一つだけ現れます。これは「厳密な周期はないが、平均的な網目サイズが存在する」ことを示します。
- 低角側の平坦化:q → 0 に向かって強度が一定値に落ち着く、あるいは少し減少します。これは空間が隙間なく埋まっている(相関がある)ため、超長距離では散乱が打ち消し合う性質を反映しています。
- 高角側のPorod勾配:最終的には q−4 に沿って減衰します。
2. 得られる主な情報
ゆらぐ迷路の「平均的な網目サイズ(ドメイン間隔 D)」を特定できます。
- 網目サイズの算出:山の頂点の位置 q* から算出できます。
D(平均ドメイン間隔)≈ 2π / q*
例:山の頂上が q = 0.1 nm−1 なら、迷路の網目の大きさは約 63 nm です。
3. 秩序相(No. 10)との決定的な違い
- Ordered(秩序相):鋭いトゲトゲした山が複数並ぶ。
- Disordered(無秩序相):ぼんやりとしたコブが一つだけ。
NanoTerasu 活用アドバイス
実験条件(温度や濃度)を変えて「トゲがコブに化ける」瞬間を捉えることができれば、材料が結晶的な迷路から流動的な迷路へ相転移した決定的な証拠になります。無秩序相の「山」は幅が広いため、ピークの位置を正確に特定するには、ノイズの少ない滑らかなデータが必要です。
注意点:急激に減衰するバックグラウンドの上にこのブロードな山が乗っている場合、山が単なる「肩」のように見えたり、完全に埋もれてしまうことがあります。適切なバックグラウンド引き算を行うか、縦軸を I(q) · q2 や I(q) · q4 に変換した強調プロット(横軸は q のまま)を活用してピークを浮かび上がらせるのが解析のコツです。
No. 10 双連続構造(秩序相) / Ordered Bicontinuous
ブロック共重合体のジャイロイド相、脂質が形成するキュービック液晶(キュボソーム)、メソ多孔性シリカ(MCM-48など)といった物質で見られる、空間全体を埋め尽くす「周期的な迷路」の構造です。NanoTerasuのような放射光施設では、このグラフのように10桁以上のダイナミックレンジにわたる美しい減衰曲線を捉えることができます。
1. グラフの読み解き
- 低角領域(Low-q):構造の全体的な空間配置を反映します。
- 構造ピーク(Structured Peak):迷路の規則正しさ(周期性)を示す鋭い山です。
- 高角ポロド領域(High-q Porod Region):縦軸を拡張したことで、界面の鋭さを反映する q−4 の減衰が数桁にわたって確認できるようになります。
2. 得られる主な情報
周期的な迷路の「周期(ドメイン間隔 D)」を特定します。
- 周期 D の算出:主ピーク(Fundamental Peak)の位置 q* から算出できます。
D ≈ 2π / q*
例:q* = 0.1 nm−1 の場合、周期 D は約 63 nm です。