用語解説集
1. 電子状態・化学状態・局所構造の解析(分光法)
XAFS / XAS(X線吸収微細構造 / X線吸収分光法)
X線のエネルギーを変化させながら吸収量を測る手法です。得られる領域によって以下の2つに大別されます。
- XANES(ゼインズ): 吸収端近挙の領域。注目する元素の「価数(酸化状態)」や「化学結合」がわかります。
- EXAFS(イグザフス): 吸収端より高エネルギー側の広い領域。注目する元素の「周りにどんな原子が何個、どのくらいの距離で存在するか(局所構造)」が精密にわかります。
XAFS / XASの測定モード(検出法)
XAFS測定では、X線を照射した後に「何(透過光、電子、蛍光)」を数えるかによって、得られる情報の深さや精度が変わります。
透過法(Transmission Method)
- 原理: 試料を通り抜けてきた(透過した)X線の強さを直接測ります。
- わかること: 試料全体の「平均的な情報(バルク情報)」です。最も標準的で精度の高いデータが得られます。
- 注意点: X線が適度に通り抜ける必要があるため、試料を「薄く、均一に」加工する必要があります。厚すぎたりムラがあったりすると、正しいデータが取れません。
全電子収量法(TEY: Total Electron Yield)
- 原理: X線を当てた際、試料から飛び出してくる「全ての電子」を、試料に流れる電流として計測します(試料電流法)。
- わかること: 表面から数nm(ナノメートル)程度の極めて浅い領域の情報です。
- 特徴: 軟X線領域で非常によく使われます。感度が高い反面、表面の汚れや酸化の影響を強く受けるため、サンプルクリーニングが重要です。
部分電子収量法(PEY: Partial Electron Yield)
- 原理: 飛び出してくる電子のうち、特定のエネルギーを持つ電子(または一定以上のエネルギーを持つ電子)だけを選別して計測します。
- わかること: 全電子収量法(TEY)よりもさらに表面の特定の状態を強調して見ることができます。
- 特徴: バックグラウンド(ノイズ)となる低エネルギーの二次電子をカットすることで、S/N比(信号の鮮明さ)を向上させたり、より表面感度を高めたりすることが可能です。
蛍光収量法(FY: Fluorescence Yield)
- 原理: X線を吸収した後に放出される「蛍光X線」の強さを測ります。
- わかること: 表面から数百nm〜数μm(マイクロメートル)程度の、比較的深い領域の情報です。
- 特徴: 電子収量法に比べて「少し深い内部」を見ることができます。また、真空中でなくても測定しやすいため、大気中やガス雰囲気下でのその場観察(オペランド測定)にも適しています。
NanoTerasuの特徴:
- BL08W: テンダー〜硬X線領域の本格的なEXAFS解析(原子間距離の算出など)に最適化されています。
- BL08U / BL14U: 軽元素や遷移金属の表面化学状態(XANES)の観察に強みがあります。
XPS / ESCA(X線光電子分光法)
X線を照射して飛び出す「光電子」を測ります。表面(数nm)の元素の種類と結合状態がわかります。
- AP-XPS: ガス雰囲気下で測定。触媒反応中などの「その場観察」が可能。
- HAXPES: 硬X線により、物質内部(数十nm)の電子状態を非破壊で調査。
- Nano-ESCA: ナノサイズに絞ったX線で、微小領域の化学状態を可視化。
XRF(蛍光X線分析)
X線を当てたときに出る元素固有の光を測ります。元素の種類と分布(マッピング)がわかります。
- 特徴: BL08WではXRDと組み合わせ、構造と元素分布の同時評価が可能です。
ARPES(角度分解光電子分光法)
光電子が飛び出す「角度」と「エネルギー」を測ります。物質内の電子の動きやすさ(バンド構造)がわかります。
RIXS(共鳴非弾性X線散乱)
散乱される光のエネルギー変化を精密に測ります。スピンや軌道の励起など、極めて低いエネルギーの電子状態を解剖します。
2. 磁気特性の解析
XMCD(X線磁気円二色性)
左右の円偏光X線を用い、吸収の差を測定します。
- わかること: 特定の元素の「磁石としての性質(スピン・軌道モーメント)」。
- 手法: 顕微観察による磁気ドメイン(磁区)画像、または非集光による平均的な磁性評価。
3. 結晶構造・ナノ構造の解析(回折・散乱法)
XRD(X線回折)
結晶によるX線の跳ね返り現象を利用します。原子配列や物質の結晶形態(相同定)を調べます。
⚠️ BL08Wに関する注意: 本装置は粉末回折計+XRFの構成です。残留応力の測定には対応していません。
SAXS / WAXS(小角 / 広角X線散乱)
透過・散乱されるX線の広がりの角度を測ります。
- SAXS: ナノサイズ(粒径、空隙、自己組織化構造)の評価。
- WAXS: 原子・分子レベルの規則性(分子配向、凝集状態)の評価。
4. 形態・3Dイメージング(コヒーレント解析)
CT(X線コンピュータ断層撮影)
多方向からの透過画像から3D構造を再構築します。3D形状、空孔・き裂、不均一混合、破壊プロセスがわかります。
- コヒーレンスの利用: BL09W(白色)およびBL10U(単色)は、光の干渉性(コヒーレンス)を利用することで、従来のX線CTでは見えにくかった「密度差が小さな複雑構造」も鮮明に可視化できます。
STXM / SXM(走査型透過 / 走査型X線顕微鏡)
集光したX線でスキャンし、ナノスケールの元素分布や化学結合状態を画像化(顕微分光)します。
5. ナノ構造 / 立体構造(アドバンスト手法)
Ptychography(タイコグラフィ)
散乱パターンから計算で画像を復元するレンズレスイメージングです。
- わかること: X線顕微鏡の物理的限界を超えた、最高で数ナノメートル単位の極限解像度による内部構造の可視化。時間はかかりますが、NanoTerasuで不規則な3D構造の可視化では、最も空間解像度が高い手法になります。(アドバンスト測定)